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conflict
「お、いい湯加減じゃん」
 ウータイの温泉を思わせる、アタシ好みの熱めのお湯。ニブルの険しい山道を歩いた疲れが消え去っていく
ようだ。風呂というものはやはりこうでなくては。シャワーしか無い宿に泊まった時には心底失望したものだ
が、露天風呂を売りにしているらしいこの宿は町中で何かとアタシの目を引いた。
 奴らにそれとなく交渉した甲斐があったもんだ。オッサンくさい声を漏らしつつ熱い湯船に体を沈める。
 遅めの時間に入ったおかげで、そこそこ広い浴場の泳げそうな湯船にはアタシ一人だけ。いっそのこと本当
にバシャバシャと泳いでしまいたいぐらいだけど、さすがに自重した。そこまでガキじゃない。
 眺めのいい夜空にはのほほんと月が浮かんでいる。お月様は気楽でいいよな。夜になったら明かりをつけて
のんびり西に沈んでいくだけでいいんだから。アタシもあれぐらい楽な人生を送りたいもんだよ。
 そういえば、ミッドガルのスラムで生まれ育った連中ってのは、上を見上げても金属のプレートしか見えな
いから『空』ってもんを知らないらしい。そういう奴らにとって頭上ってのはあくまでも『天井』らしい。神
羅なんかの下で生きてるのが悪いんだからアタシには関係の無いことだけど、哀れと言えば哀れだ。
 「あ……やべ」
 自分のマテリアを保管している袋を部屋に置き忘れてきたことに気が付いた。まぁ、お人よしなアイツらだ
し、仮に盗られたら倍にして盗り返してやればいいだけのこととはいえ、少々無用心だったかもしれない。
 「なーんか、気が緩んでるなぁ。こんなはずじゃなかったんだけど」
 セフィロス、だったっけ。神羅の英雄だとか言われてるけど、ウータイの人間からしたら悪魔以外の何者で
も無い。そのはずなんだけど、当のウータイの腑抜けどもと来たら「戦争はもう終わったんだ」と、まるで牙
を抜かれた狼だ。幼すぎて戦いに出られなかったアタシがこんな悔しい思いを抱えてマテリア探しに東奔西走
してるってのに、情けなくて仕方が無い。
 そのセフィロスを追っかけて旅してる連中。マテリアをゴロゴロ抱えてたし、神羅に敵対してて利害も一致
ってなことでアタシも半ば強引についていくことに決めたわけだが、見れば見るほどヘンテコな集団だ。
 チョコボ頭の男はリーダー格の癖に無愛想でなんか冷めてるし、バカでかいオッサンは声までバカでかくて
しかも右腕が銃だし、言葉の話せる犬みたいなのもいる。ついこの間メンバーに加わった赤マントの男もチョ
コボ頭に負けず劣らず無愛想だけど、アタシが数十分で理解できたPHSの使い方がてんで分からなくて、受話器
を持ってボーッとしてたりする。あと、変な方言で喋る猫。そいつの下にいる生物といい、本当に謎だ。
 あぁ、でも女性陣はまともか。全体的にピンク色な感じの、リボンで髪の毛束ねてる人と、やたら胸のでか
い、髪がクジラみたいで瞳の赤い人。変人だらけのこの集団に馴染めるかどうかなんて心底どうでも良かった
けど、この二人のおかげでひとまずは居場所に困らずに済む。

 タオルを頭の上に乗せて湯船の壁に寄りかかっていると、鼻歌を歌いながら一人、その後ろからもう一人と
浴場に入って来た。普通の客が風呂に入るような時間じゃないし、誰だかはだいたい見当がつく。
 「へー、お風呂から外の景色が見られるのね」
 ちらり、と目線を入り口の方へ送ってみると、リボンも解いて髪を下ろしたエアリスが、遠くを見やる時の
仕草で空に視線を送っていた。女同士なんだから当たり前なんだけど、体を隠す気は無さそうだ。スタイルの
良し悪しなんてまるっきり興味の無かったアタシだけど、スラッとしてて均整の取れてるエアリスの体つきを
見ると、なんだか羨ましいような気持ちになる。
 「あらユフィ。来てたんだ」
 ひたひたと足音も軽快にエアリスがこっちへ寄ってくる。六歳も年上なのに、汚れというものを知らないか
のような、無垢な笑顔。てっきり世間知らずのお嬢様か何かだと最初は思ったけど、この人はミッドガルのス
ラムで花売りをしていたらしい。詳しい事情は知らないけど、親が両方ともいない上に、小さい頃から、今で
も神羅から名指しで狙われ続けているみたいだ。
 いつも明るい表情とそんな裏事情とは、アタシの中ではまだうまく結びついていない。
 「わっ、熱い!」
 手をちょんとお湯に触れさせた途端にエアリスが目を見開いた。
 「これぐらいが丁度いいって。ヨソの風呂がぬるすぎるだけだよ」
 ぶんぶん手を振って熱を飛ばしている所を見ると、分からない。相当苦労してきたはずなのに。世の中への
ムカツキとか、そういうものがエアリスには感じられない。神羅の奴らが金と力に物を言わせて幅を利かせて
るこんな世界だっていうのに。
 彼女と話をしていると、アタシの苛立ちや怒りは、なぜかたちまちに鎮まってしまう。怖いとか威圧感があ
るとかそういうのじゃないのに、天下無敵のユフィちゃんも彼女の前では子犬みたいに従順になってしまう。
 とにかく、不思議な魅力を持った人だと思う。
 「先に体洗ってくるね」
 そう言って、エアリスが背を向けて洗い場の方へ歩いて行く。長い髪の下に構えたお尻がつい目に入った。
 入れ替わりに、洗い場の方からティファがこちらへやってきた。自己主張の激しい、グラマーな肉体。自分
の何倍もありそうなモンスターを文字通り己の身一つでボコボコにしてしまう力は、あの細い腕やしなやかな
長い脚のどこから湧いているのだろうと、知り合ってあまり長くは無い今までの間にアタシは何度不思議に思
ったことか。
 「隣に入っていい?」
 「う、うん」
 やや下から見上げる大きな山脈が、二つ。少し体を動かす度にぷるぷる揺れていて、圧巻の一言だ。
 そりゃあ、普段あんなに露出の高い服を着て歩いてるんだから、デカいってのは分かりきってたけどさ。何
を食えばあんなになるんだか。
 身軽な服装が好きってのはよく分かる。アタシだって身軽な格好が好きだ。けど、並んで歩いていると、ア
タシの体つきがいかに貧相かってのを嫌でも思い知らされる。三角座りをするように膝を抱えて、熱い湯の中
で体を縮めると、なんだか自分がとてもちっぽけに思えた。
 一応はアタシも女なんだけどな。なんだろ、この敗北感。
 ──別にどうでもいいよ、そんなの
 心の中で吐き捨てるようにそう言って、込み上げる悔しさや情けなさを無理矢理押さえ込んだ。
 「今日も疲れたね」
 湯加減を確かめもせずに、ざぶんとティファが湯船に体を沈めた。心なしか、水位も上がる。濁ったお湯に
体が隠れて、ホッと一息。ずっと目の届く範囲にアレがあったら、目の毒だ。
 「ずーっと殺風景な山道を歩き通しだったからね。ま、バギーに乗るより一万倍ぐらいマシってもんだけど」
 「運搬船でもそうだったけど、乗り物は苦手なのね」
 「あー、ダメだね。全然ダメ。っていうかクラウドの運転酷すぎなんだよ。揺れすぎて大変だったっての」
 「うふふ……ねぇ、どうしてクラウドがずっと運転手だったか分かる?」
 「へ? 知らないよ。一応リーダーだからじゃないの?」
 「彼もね、苦手らしいのよ、乗り物。車なら運転席に座ってるのが一番マシなんだって」
 くすくすと含み笑いをしながら赤い瞳を細め、ティファが口角を釣り上げる。そう言われてみれば。ジュノ
ンからコスタ・デル・ソルに渡る船の中でアイツから酔い止めの薬を貰ったっけ。いつも涼しい顔してるから
分からなかったけど、クラウドも気持ち悪いのを我慢して船をウロついてたのかな。
 「なんだよ、そういうことならアタシが運転すれば良かった。あ、でも車の動かし方知らないし、めんどく
さいからやっぱナシだね」
 「ユフィらしいわね」
 呆れた顔でふうとティファが息を吐いた。
 「瞬間移動のマテリアとか、あったら欲しい?」
 会話が聞こえていたのか、遠くからエアリスの声が割り込んできた。
 「とーぜーん! 密かに探してるんだよね」
 アタシも声を張り上げてエアリスに応えた。

 やがてエアリスも体を洗い終えて、おっかなびっくり湯船に入ってきた。眉間に皺を寄せながらゆっくりと
湯に浸かって床に腰を下ろすなり、にゅっと手が伸びてきてアタシの髪に触れた。
 「髪が短いのは、昔から?」
 「ま、まぁね。伸ばした髪って重たくてめんどくさいからさ」
 おもむろにもみ上げを摘みあげられて、思わず早口になった。いきなり体の一部に触られたら怒声の一つで
もあげる所なんだけど、エアリスが相手だとどうにも調子が狂ってしまう。
 「可愛いわよね、ショートカット」
 「そうね。こういうのも、爽やかで活動的な感じ」
 エアリスにつられて、ティファも手を差し出してアタシの後れ毛をちょいと摘んだ。ティファはイケイケな
服装と色っぽい外見とは裏腹に、意外なぐらい控えめな人だ。エアリスみたいに他人をグイグイ引っ張ってい
くタイプでは無い、ってのが段々分かってきた。まぁ、あの腕力だから、怒らせたらヤバそうってのは確か。
 実際は優しいから、アタシが勝手にビビッてるだけなんだけど。
 「ボーイッシュな印象よね、ユフィは。意外とこういう女の子って男の子にモテモテだったりして」
 「そういえば、ユフィには『まだ』訊いてなかったわよね。そこの所、どうなの?」
 「……キョーミ無いね」
 クラウドの真似をして、ぎこちなく肩をすくめてみせる。
 「あははっ、今の似てる!」
 アタシの巧みな物真似に、エアリスがころころ笑った。ティファも横で噴出しそうになるのを堪えている。
 好いた好かれたの話に興味が無いのは本当のことだ。ナヨナヨしてて覇気の無いウータイの男には魅力を感
じなかったし、ここの男も変な印象ばっかりが残ってて、そういう気にはならない。バレットはゴツ過ぎてア
レだけど、他の二人は顔だけ見ればまぁ美形だとは思う。でも、あんな愛想の無い表情と二人っきりにでもな
ったら息が詰まりそうだ。もっと仲良くなれば違った面が見えるのかもしれないけどさ。
 ともかく、マテリアの方が大事だ。マテリア第一、ゼニが第二ってね。
 「今はいいよ、そういうの。彼氏とかできたってメンドーなだけじゃん」
 「へぇー……ふーん……」
 「なっ、なんだよエアリス。ニヤニヤすんなって!」
 「今後に期待ね、ふふっ」
 「ティファまで! いいんだよ、アタシにはマテリアさえあれば」
 「どうだか。興味無いとか言ってる子に限って、結構はまっちゃうと凄かったりして」
 「あーもう! いいから別の話しよーぜ!」

 強い祖国を取り戻すための真面目な旅だから気にしてなかったつもりだけど、一人であちこち駆けずり回っ
ている内に、アタシは知らず知らず人寂しさを感じていたみたいだ。こんな下らないお喋りをしている時間を
嬉しく思う自分がいる。
 人間の年齢で言うとアタシと大体同い年と分かったレッドをからかって遊ぶのも楽しいし、あの猫も黙って
ればヌイグルミみたいで可愛い。段々と、自分がこの奇妙な一行に馴染みつつあるのを感じる。
 しかし、アタシの旅の目的は、あくまでもウータイの復興だ。セフィロスを追いかけるこの連中に最後まで
付き合う義理は無いし、溜め込んだマテリアをごっそり頂いて旅の途中でオサラバするつもりだ。『戦いの中
でマテリアが成長する』という噂が本当だったことを確かめた以上、モンスターや神羅の奴らと戦う日々を過
ごすこいつらともう少し行動を共にしていようかと思っていたが、予定よりも計画の実行は早めなければなら
ないかもしれない。
 そうしなければ、アタシは……。
 「あ、そろそろアタシ上がるよ」
 その場にいることが辛くなってザバッと湯船から出る。外気がやけに冷たく感じられた。
 「部屋の鍵、どっちが持ってるの?」
 「エアリスの籠に入ってるわよ」
 「りょーかい。んじゃ、お先」
 「ユフィ」
 さっさと体を拭いてしまおうと爪先を脱衣場へ向けようとすると、エアリスの声に呼び止められた。
 「おやすみ」
 「あ……うん、おやすみ」
 優しい笑顔を向けられて、胸がドキリとした。何をしても許してくれそうな、慈愛って言葉がぴったりの微
笑みだった。自分の中の良心を揺り動かされて、掌が汗ばんで来るような気がした。


 脱衣場で体から立ち上る湯気を拭き取りながら、アタシは指先にぞわぞわと嫌な感情が沸き起こってくるの
を感じていた。
 一刻も早く、あの計画を実行しなければ、という焦り。上手くやれば、力を蓄えたマテリアが望み通り大量
に手に入るだろう。でも、その宝の山が意味するものは、この心地良い時間からの別れ。
 ──離れたくない
 目元に熱いものが込み上げてくる。
 違う。こんな感傷的になってちゃダメだ。自分に喝を入れて、ごしごしと乱暴に目元を拭う。
 「……よしっ」
 バシッと頬を叩いて、決意を新たにする。
 やるしかない。近づくチャンスは一度、おそらく最初で最後だろう。悪いけど、マテリアは頂いていく。
 もう少し西へ行ったら、連中をウータイへ誘ってみよう。セフィロスの情報でもでっちあげれば、恐らく食
いついて来るだろう。その時に向かって、覚悟を決めなければ。
 歯を強く食いしばって、アタシは脱衣所を後にした。


 終わり



―後書き―

FFDQ板のSSスレに投下してきたものでした。時期的にはDisc1の後半辺り。
ショートカット・爽やか系元気っ娘系の好きな自分としてはユフィはそれはもうツボにハマる存在でした。